松本市で導入されたスクールロイヤー制度・学校からの相談に対応

2020長野の子ども白書掲載予定記事紹介⑰

松本市で導入されたスクールロイヤー制度について

(執筆者は長野県弁護士会 子どもの権利委員 弁護士森本遼さんです)

スクールロイヤーとは
令和元年11月より、長野県内では初めて、松本市においてスクールロイヤー制度が導入されました。
 スクールロイヤーとは、直訳すると、学校の弁護士となり、文字どおり、学校に関わる弁護士を指しますが、スクールカウンセラーのように学校で勤務するものでありません。スクールロイヤーについて、一義的な定義はありませんが、日本弁護士会連合会では、「学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉等の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士」(「スクールロイヤー」の整備を求める意見書、2018年)と定義し、自治体にスクールロイヤーの導入を呼びかけています。
 文部科学省は、平成28年より毎年「いじめ防止等対策のためのスクールロイヤー活用に関する調査研究」を発表していますが、そこでは、スクールロイヤーによるいじめ予防教育や学校の法的相談への対応が内容とされており、同省は、いじめ問題への対応に主眼を置いて、スクールロイヤーの導入を進めようとしています。
 他方、文部科学省設置の中央教育審議会が平成27年12月に発表した「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」の答申においては、弁護士の学校現場への関与は、不当な要望への問題解決支援として取り上げられているにとどまります。
 このように学校に関わる弁護士と言っても様々な関わり方がありますが、現在、全国各地で導入が始まっているスクールロイヤー制度は、主に学校からの相談対応が中心となっています。

スクールロイヤー制度の歴史
 全国では、港区において、2007年に導入された制度がスクールロイヤー制度の先駆けとして有名です。港区では、スクールロイヤーという名称はなく、学校法律相談制度として導入され、小中学校のほか、公立幼稚園も対象に含まれていることが特色で、学校・幼稚園から直接、担当弁護士に法律相談が可能となっています。同区では、法律相談のほか、平成28年度より、法律相談で解決に至らない場合に、学校と保護者の面談に弁護士の同席を実施しているとのことであり、先進的な取り組みが進められています。
大阪府では平成25年に導入されました。小中学校のほか、設置主体が府であることから、高校も平成30年から対象となっています。このように、全国各地で導入の動きが広がり始めています。
保護者から学校に対する要求が増加し、また、要求の内容が多様化していることを受けて、学校現場から、法律の専門家に相談したいとの要望が高まっていることが、多くの自治体でスクールロイヤーが導入されるきっかけになっていると考えられます。

松本市のスクールロイヤー制度
 松本市教育委員会は、長野県内でいち早くスクールロイヤー制度を導入しました。
 松本市は、平成25年4月より、「松本市子どもの権利に関する条例」を施行し、すべての子どもにやさしいまちづくりを推進しており、県内でも子どもの権利救済分野において先進的な取り組みをしている自治体です。
 松本市では、市立の小中学校全47校(令和元年度現在)を5ブロックに分け、各ブロックを1名のスクールロイヤーが担当しています。長野県弁護士会松本在住会と覚書を取り交わし、同会より筆者を含めて合計5名の弁護士がスクールロイヤーに選任され、各学校の相談に応じています。
スクールロイヤーの業務内容は、学校からの相談に対し助言を行うこと及び研修会の講師であり、文部科学省が考えているいじめ予防教育や、港区のように学校において保護者との面談に立ち会うようなことは業務内容に含まれていません。もっとも、長野県弁護士会では、スクールロイヤー制度とは別に、長野県教育委員会を通じて、小学校高学年を対象としたいじめ予防授業を県内各地で実施しており、学校教育に弁護士が関わる機会は増加しています。
 学校からの相談は、電話が原則であり、必要に応じて弁護士事務所での面談相談も可能となっております。
 生徒や保護者がスクールロイヤーに直接相談することはできませんが、スクールロイヤーは、学校の代理人ではなく、相談役として、子どもの最善の利益を念頭に置き、相談に対応することが覚書に明記されており、松本市のスクールロイヤー制度の特色となっております。
これは、日本弁護士連合会の意見書の趣旨を反映したものですが、覚書の取り交わしにあたり、弁護士会内でも多様な意見が交わされました。子どもの権利のために活動する弁護士が単に学校の代理人として活動してしまうと、利害関係が生じるため、子ども側から依頼を受けて、学校と対立する事件の代理人として活動することができず、子どもの権利のために活動できる弁護士がいなくなってしまうとの懸念があり、他方、学校において、紛争が顕在化する前に、子どもの権利に精通した弁護士が、子どもの利益のために学校に助言をすることは紛争の未然防止に役立つことから、学校の代理人ではなく、相談役として、子どもの最善の利益を考慮しながら活動することを覚書に明記していただき、スクールロイヤーを選任することとなりました。
全国各地においても、このようにスクールロイヤーの立ち位置が問題となっており、特に弁護士数の限られる地方においては、重要な課題となっています。
また、相談内容は、いじめ問題を始めとして、学校事故、非行、虐待、体罰、不登校、保護者対応など多岐にわたることが予想されますが、学校が対応に苦慮し、スクールロイヤーに相談をするのは、保護者対応が関連する事例が非常に多く見られます。
いじめ問題と一言で言っても、その内容は複雑化しています。いじめ防止法により「いじめ」の定義が被害者の主観を基準としたことにより、いじめに該当する事例は増えましたが、互いに嫌がらせをしているような事例も、双方向のいじめに該当しうることになり、慎重な対処が必要です。また、ネットやSNSでのいじめは増加しており、そのツールが多様化していることから、学校側にはこうしたツールの知識も求められており、学校が対処に苦慮するケースはますます増えていくものと考えられます。
松本市での現状の相談件数は、私が担当しているブロック内で月1件あるか無いか程度であり、他のブロックも同様であると思われますが、学校側がスクールロイヤーに相談をする時点で、やはり学校のみでは対処が難しい事案となっており、弁護士に相談することの敷居の高さがあって、件数が増えていないとも考えられるため、より相談しやすい体制の構築が重要であると考えられます。

これからのスクールロイヤー
 文部科学省は、令和元年9月、令和2年度より都道府県及び政令指定都市等、全国にスクールロイヤーを配置する方針を示しました。
 文部科学省としては、冒頭で述べたとおり、いじめ対応に重点を置いて、学校内の諸問題について、学校が弁護士に相談できるような制度を想定しています。
 県内でも、現在スクールロイヤーの設置を進め、あるいは検討している自治体があり、今後、追随する自治体が増えることが期待されます。
 いじめによる自死事案で学校あるいは教育委員会等の対応が非難されるのは、いじめ認知後、適切な対応をしない、あるいは自死発覚後、事実を隠蔽するような対応をとるといったケースが見られます。
 いじめ事案を始めとして、学校内の子どもに関わる問題の多くは初動対応が重要です。多くの自治体でスクールロイヤーの導入が進むことにより、学校が弁護士に相談しやすい環境が整えば、学校が問題を抱え込んで対応を悪化させるのではなく、初動段階から法的助言を得て、適切な対応をすることによって、子どもの権利利益が守られることに繋がります。スクールロイヤーは、始まったばかりの制度であり、課題はありますが、改善を重ね、すべての子どもの最善の利益のために有用な制度として拡大していくことが重要です。

<参考文献>
神内聡『スクールロイヤー:学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170』日本加除出版


Posted by 長野の子ども白書編集委員会. at 2020年03月13日20:38

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