2024長野の子ども白書掲載予定記事紹介 ①不登校、その「支援」の前に欠けているもの
これからご紹介する記事は、4月21日のオンライン会議で報告されます。参加ご希望の方は長野の子ども白書HPからお申し込みください。
不登校、その「支援」の前に欠けているもの
「不登校実態調査」から見えてきた課題
信州居場所・フリースクール運営者交流会 発起人 村上 陽一
はじめに
1991年から30年以上続いている文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が、今年も公表されました。文科省の定義による不登校は、中学では「100人に6人」に達し、総数は30万人に迫りました。これに「フリースクールで出席扱いになっている者」、「遅刻・早退などで欠席にはなっていない者」、「中間教室で過ごしている者」などを加えれば、その数は倍以上になるだろうと多くの支援者は口を揃えます。
文科省は不登校が急増した要因について、2019年末から始まったコロナ禍の影響に加え、2017年に施行された「教育機会確保法」の浸透が背景にあると分析しています。もちろん、これらの影響もあるでしょう。しかし、時系列で見れば、少なくとも2013年から、一貫して不登校児童生徒数が増え続けていることも事実です。
現在、この調査結果は、長野県に限らず、多くの自治体で「不登校支援策」を議論する際の参考資料として用いられています。しかし、仮に、この調査が実態を十分に反映できていないとすれば、それを根拠に議論された政策が奏功しないのも必然と言えます。
そこで、私たち「信州居場所・フリースクール運営者交流会(以下「交流会」)」では、文科省の調査と比較検証するため、独自の実態調査を行いました。本稿では、その結果を基に、調査のあり方や、調査結果を活かした支援のあり方について考察を試みたいと思います。
1. 調査の概要
①調査方法:Googleフォームを利用
②
回答者:長野県在住で不登校及び不登校傾向の小中高生をお持ちの保護者(匿名)
③期間:2023年9月15日~9月30日(16日間)
④
回答数:全273件(小学生216件、中学生55件、高校生2件)
2.「不登校の要因」について [資料1-1、1-2](省略)
文科省の調査を見ていくにあたっては、「回答者が教職員」である点を考慮する必要があります。その上で、長野県内の公表値を見ると、不登校の要因を「(本人の)無気力・不安」とした回答が最多で、全体の約40.6%を占めています。ところが、「当事者の保護者を回答者」とした交流会の調査では、同じ選択肢でも約12.8%にとどまりました。しかも、自由記述からは、この選択肢を選んだ保護者の多くが「無気力」ではなく、「不安」という要素を意識して回答していることがうかがえます。また、仮に「無気力・不安」になったとしても、「その原因こそが調査されるべき」という指摘も複数ありました。
一方、交流会の調査で最も多かったのは「教職員との関係をめぐる問題」の選択肢でした。「複数回答無」でも約15.8%、「複数回答有」では約42.5%の保護者が選んでいます。これは、文科省基準と比較すると、最大約46.7倍もの開きがあることを意味します。
そして、さらに大きな乖離が見られたのが「いじめ」の選択肢です。こちらは交流会の数値の方が最大約63.7倍多い結果となりました。「いじめを原因とした不登校」は、文科省が定める「重大事態」にあたる可能性もあり、仮に交流会の調査の通りであれば、重大事態として扱うべき事案が見逃されている可能性も生じます。その意味でも、この数字は重く受け止める必要があるでしょう。
次に注目すべき選択肢は「学校のきまり等をめぐる問題」です。こちらは、交流会の数値の方が最大約48.6倍多くなりました。実は、この数字は少し予想外の結果でした。というのも、交流会の回答のうち、「小学生」の保護者が全体の79.1%(216件)を占めていたからです。一般に小学校には制服に代表されるような、明文化された校則は希です。ところが、自由記述には小学生が実に多くの「きまり」を意識して生活している様子が見て取れました。「ノートの書き方」や「あいさつの仕方」、「文房具の指定」、「集会時の歩き方」など、非常に細かく、多岐に渡ります。このような「明文化されていないルール」が、いわば「ステルス校則」として子どもたちを縛っている実態が見えてきました。
フランスの哲学者ミシェル・フーコーが提唱した「一望監視施設(パノプティコン)」モデルによれば、常に教師に見られているかもしれないという「意識さえ定着させれば」、常に監視されている場合と同じ効果が表れるとされます。子どもは「自主的に」行為を抑制し模範になろうとします。さらに、相互を監視し、時に違反者を罰するようになると指摘します。実際、小学校では、担当の子どもが違反者を数え、児童会や校内新聞で公表し、時には罰を与える例も見られます。そして、教員の間では、このような事例を「自主的で誇らしい活動」と評価する声も少なくありません。
さらに問題なのは、文科省の調査では、このような「小学生の息苦しさ」が、数値として全く表れていないということです。
以前から文科省の調査方法の限界について、多くの支援者たちが懸念を示してきました。にもかかわらず、行政やマスコミは、そういった声に耳を傾けてきたでしょうか。結果として、不登校は「本人や家庭のせい」だという、偏った印象が社会に定着してきたことは否めません。無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が、「当事者(の保護者)と学校」、「当事者(の保護者)と、それ以外の子どもたち(の保護者)」の相互理解を妨げ、分断を助長してきた、この30年を繰り返してはなりません。
3. 「相談支援の在り方」について[資料2-1、2-2](省略)
次は「相談先」についてです。多くの当事者が信頼できる相談先を求め苦労している様子がうかがえます。それは「納得感」にも表れています。この項目では公的機関と民間の間に予想以上に大きな差がつきました。残念なことに、自由記述には、学校や行政から受けた一方的な言葉や冷たい態度に対する憤りや落胆の声も多く寄せられています。
なぜ、このような摩擦が生じるのでしょうか。前述の「不登校の要因」を合わせて考えてみます。「本人や家庭」に要因があると回答している学校側と、「教職員の対応」にあると考えている保護者が、相談の席に着くのですから、円滑に対話が進まないのも無理はありません。逆に、民間の相談先、特に「親の会」が納得感や信頼を得ているのは、まずは「共感」をもって接し、同じ目線で相談、支援にあたっているからに他なりません。
続きは明日。