2024長野の子ども白書掲載予定記事紹介 ⑤不登校の現在地(内田 良子)
不登校の現在地
子ども相談室「モモの部屋」・心理カウンセラー 内田 良子
はじめに
文科省が2023年10月に発表した不登校の小中学生が30万人に迫り、マスメディアをはじめ教育現場を大きく揺さぶっています。年間30日以上断続または連続で欠席した不登校の子どもは前年度比で22%増えました。この他に新型コロナ感染回避で30日以上休んだ子どもは忌引と同じ出席扱いですが2万4千人弱、学校外の学びを選択した子や非行などを含む「その他」に分類された不登校は6万2千人強で、この人数を加えると不登校は36万人を超えます。この他に病気が7万6千人で2011年度の2倍を超え、この中に体調不良で不登校の子どもがかなり含まれていると推測されています。いずれにしろ少子化が進む時代に不登校が増え続ける教育現場は異常です。文科省は新型コロナの影響で一過性と説明しながら、他方で「多様な学び学校(不登校特例校)」の設立や学校内フリースクールなど泥縄式の対策を打ち出しています。子どもたちがなぜ今の学校にNoをつきつけ、登校を拒否し不登校生活をするのか、子どもたちに聞くことなしに、国やおとなたちの都合と教育行政の体面で、もぐら叩きゲームのように叩き潰そうとしてきた対策が破綻に瀕しているということでしょう。学校に流れ込む教育という河川が決壊を始め、堤防が崩れる音が聞こえてくるようです。
コロナがもたらした現実
昨年5月に新型コロナウイルス感染症が5類になると共に、待っていたかのように各地から講演会と相談会の依頼が入ってきました。コロナ以前は市民サイドで教育行政に取り込まれることなく、不登校をする子どもを理解したいと活動する団体からよく声がかかりました。コロナ明けから、学校依頼が増えてきました。高い塀の内側で何が起こっているのかを、私はリアルに知る機会に恵まれました。昨年猛暑の続く夏休み、東京近県の公立小学校から「人権教育の一環として教職員研修で不登校の話をしてほしい」という依頼がありました。声をかけてくれた先生は学校現場を5年ほど離れて戻ったところ、学校が市民社会とあまりにも乖離している現実に驚き、危機感を抱いて企画したと話してくれました。校長は「不登校は生徒指導として扱っているが、子どもの人権という観点で話を聞くのは興味深い」と了承してくれたということです。当日応接室で校長は「わが校には幸い不登校の子どもは一人もいない」と小さく胸を張り「しかし、いつ不登校になってもおかしくない子どもたちがいて、先生たちが対応に苦慮しているのでよろしく」と言われました。研修の会場では堅い表情の先生たちが直立不動の姿勢で立って迎えてくれびっくりしました。ここはアウェイだと内心ドキドキしながら「登校拒否、不登校をする子どもたちの訴えと保護者の苦悩」というテーマで話を進めました。子どもたちがなぜ学校を休むのか、その原因や理由を理解せず、解決のための対応もしないまま「学校復帰」を急ぐ対策は子どもを追い詰め、小学生も含めて命を断つ子どもが増えている現実を伝えました。小学3年生が辛い登校を「学校に行く道は命を落とす道、通学路にある石柱が墓石に見える」と親に訴えていたこと、2017年に行われた「登校拒否・不登校全国のつどい」で配布された「子どもたちのつぶやき」には「ただひと言、『休んでいいよ』と言ってほしかった」と、切実な訴えがあることなどを伝えました。不登校の子どもたちが国連子どもの権利条約に学んでつくり、2009年の「登校拒否・不登校全国ネットワーク」全国合宿で発表した「不登校の子どもの権利宣言」の内容を伝え、学校に行かない子どもたちがいかに主体的に学び実践し成長する存在であるかを話しました。
統計に計上されない透明化した不登校
講演の後、不登校対応の教員から、母親の車で毎日送り届けられる高学年の子どもがいると相談を受けました。登校すると校舎の最上階にある非常階段の裏に、人目につかないように身を隠し、一日すごしているということです。毎日登校しているので不登校ではなく出席扱い。教室にこわくて入れず授業は受けないまま、隠れてすごすのは小学生の子にとっては苦役に等しく、学びと日常生活から疎外された不毛な時間のように思えます。からだは登校、心は学校拒否の姿に心が痛みます。文科省の早期学校復帰対策が続くなかで、こうした子どもたちの姿が、全国各地の学校で日常化しています。文科省が毎年発表する不登校の統計には計上されない見えない不登校です。登校圧力が強く心は登校拒否、からだは登校という透明化した子どもたちの存在はかなりの人数に登るのではないかと推測されています。国が不登校の子どもの人数の増加のみを問題視して対策するため、登校していさえすればよしとして不登校の数減らしに走る学校現場が子どもたちをネグレクトしていることを見逃してはならないと思います。
不登校はなぜ増え続けるのか
年が明けて宮城県内の公立小中一貫校から不登校について教職員研修をしたいとの依頼が入りました。東日本大震災のあと、中学生の不登校が全国で一番多いという報告が続いた県です。震災が大きな傷跡を残していることとの関連が心配されていました。当日は保護者や地域住民にも声がかかり、オンラインと会場とのハイブリットで行われました。翌日、不登校をしている子どもをもつ保護者との相談交流会を呼びかけたところ数人の人が集まりました。全国的に小学生の不登校が急増しており、その原因がどこにあるのか問われていますが、参加者の大半が小学生の保護者であることに内心驚きました。市民主催の相談会だと中・高校生が圧倒的に多いのが常です。学校で何が起こっているのか耳を澄ませました。2年生の男の子は先生が恐くて教室に入れません。母親が一緒だと行けると言うので、仕事を休んで同伴登校し、教室に入って一緒に授業を聞いています。子どもの言う通り本当に恐い先生でした。授業のわからない子に机をバンバン叩いて怒鳴りつけながら教え、子どもは泣き出しそうな様子。聞いている母親も「うわ、こわ!」とからだが震え隣に座っているわが子が「ね、恐いでしょう」と目くばせをしてくる教室はシーンと静まり返って緊張感がピーンとはりつめていているというのです。授業を終る時先生は「ああここまでしかできなかった。わからない子がいたから授業ができなかった」と子どもを責めるように言ったというのです。教室に居た母親はその子がどんなに傷ついたかを想像して心が痛くなったと言いました。衆人環視の教室で先生の厳しい指導や感情的な叱責、暴言は子どもの心を深く傷つけ、自尊の感情を打ち砕きます。子どもは教室での居場所を失い、教室が怖い、先生が恐いという精神状態に追い込まれます。自分を見るクラスメートの目がこわくなり、対人恐怖、集団恐怖に陥り、外に出られなくなる子がでます。不登校の始まりです。「先生にいじめられて教室に居場所がないのに、それでも学校へ行けと言われたら、暗黒の宇宙へ放り出された気がして死にたくなる」と小学生が母親に訴えた話を聞きました。教室に居場所がなくなった子どもにとっては、家庭が唯一のシェルターです。教室で他の子どもが理不尽に叱責されたり罰を与えられたりするのを見ている子どもたちにとって、先生の言動は面前DVです。毎日のように見ている子どもたちも心を傷つけられ、頭が痛い、お腹が痛い、夜眠れないなどと心身症状を訴えて学校を休むようになります。母親が同伴登校をしている少年は、宿題の漢字ノートをおざなりに書いていたら、真面目に書きなさいと叱責されました。緊張して升目に漢字が納まるように丁寧に書いて行ったら「ママに書いてもらったのでしょう」と怒られました。怖くて黙っていたら「黙っているのは認めた証拠ね」ときめつけられてしまいました。次の機会も「また、ママが書いたのね」と叱責され恐怖を感じます。子どもは夜眠れなくなり「目をつぶるとこわい」と不安を訴え、朝もまったく起きられなくなりました。相談会に参加した他の保護者3人が同じクラス担任でした。学級王国といわれる小学校で同じクラスから何人も不登校の子が出る典型的な例です。加えてコロナ対策が最優先だった非常事態に、厳しく生徒管理をした教師は5類に移っても強権的な指導が手放せません。無力で抵抗できない弱者の子どもたちを抑圧し続けて不登校に追い込んでいます。国は子どもたちに安全で安心な学校を用意する義務があるはずですが、学校が内部から崩壊しはじめ、国が就学義務違反の事態に陥っています。